2010年04月18日

瞳を閉じてみる夢 鰻屋半玉甘露浮世白昼夢 其の二

続きです。


その後暫くして、その鰻屋がずいぶん賑っていると聞いた。


玉子は吉原の昔より精力剤として辻売りが居た位だし
鰻の匂いがのった甘いツメはこれまた精がつきそうだ。

しかも口には甘いときて遊び人の連中が女との
ひと勝負前に舐めていくようになったのだと。

人がくれば酒も出るし、この匂いを嗅げば蒲焼きも売れる。

売れりゃあ、また高い砂糖も仕入れられるし
それで段々と店に活気がノッて来たのだろう。

婆さんは元気になったし、店は繁盛したしと
口々に縁起の良さが広まって評判なんだと言う。


一月もしたろうか、久しぶりに覗いてみると座る場所もない盛況ぶり。

親父は忙しい中でも自分の顔を見つけて飛びついてくる。
周りの客にこの人が生みの親だ、などと言い出す。

店の親父が商品に名前をつけてくれという。
何にも考えてないし、言われても思いつかない。

ことさらに甘くつくったから”半玉甘露”とした。
この名前の中にあるエロさに、野郎連中も笑い出す。

親父は喜んで「今日は店の奢りだ。皆飲んでくれ」と言い放つ。
客は一気に沸き立ってそっからは上を下へ入り乱れての大宴会だ。

どっからかタダ酒目当てにやって来た講談師くずれの
明るい調子の話に驚喜して徳利を倒しちゃあ酒をこぼし
流しのギターも気前良く振る舞い酒にあやかっちゃあ
いい声で華々しい歌を歌ってはまた喝采を浴びている。


どっからどこまでが客かもわからないまま飲み明かした。


「死人も生き返る」と尾鰭がついて
その辺りから自分にも名前がついた。

そんな風に馬鹿げた暮らしをしている内に
自分相手に色目を使う女もちらほら現れた。

どこの世の中でも名誉欲っつうのはあるもんだ。
自分たちも女としての『名』が欲しいんだろう。

もちろん、こちとらバカだから
大喜びで尻尾振って騙されに行く。


ある一人が身体ではなく
別の事を与えようとする。

お互いの過去を共有しようというのだ。
この町では、人の過去は絶対の禁忌だ。

誇れるような人生ならばこんな町にいるはずないし
この町に今いる時点で過去全てを汚すようなもんだ。


その禁忌を共有しようと言う。


言ってみれば、懺悔の機会を与えようというのだ。
しゃらくせぇと思うが、罪の意識もあるんだろう。

気に掛かる。

しかし、男の過去を知っているということが
名を得ることになるのかどうかも分からない。

ただ、女の中での女の評価の仕方は知らないので
そういう事もあるのかも知れないとぼんやり思う。

女は一つの店と契約している場合もあれば
複数の店を掛け持ちしている場合もある。

売れっ子だから複数契約している事もあるし
売れないからこそ複数掛け持ちしている事もある

同じ様に、売れているから一つの店で十分な場合もあれば
お茶を引く(売れない)から一つの店にしがみつく場合もある。

その女は、複数の店を掛け持っている。

『名』を得るならばこの店と決めている店があるので
呼ぶなら、その店からの呼び出しにして欲しいという。

なかなかにしたたかだ。

その返事をしようか、しまいか
考えている内にまた幾日か経ち。

そうしてその日が暮れては酒を飲み
日が明けては布団に入りして過ごす。


また、この白けた昼間時に堀に舫われた小舟の中で居眠りをする。


だんだんと、考えているようないないような
どうでもいいような気持ちになり、考えは逸れる。

そして自然と空に雲がかかるように
段々とまた否定ばかりの心持ちになる。

こんな町にへばりついているのがいいとは
決して思わないがどうしていいかも判らない。

こんな町でも、空っぽぅのテメエに名前を呉れ
絵空事でも尊敬を呉れるから離れられないのか。

だからテメエはへばりついているのか。

そんなことを思うでもなく思いながら

こんな、起き抜けの化粧を落とした女の顔みたいに
あっさりした昼間に堀の流れをただ、眺めている。

考えたくもないことばかり浮かぶ。

こんな風にしてただ年を取り
そして孤立無援に野垂れ死ぬ。

いつか、最高でも無縁仏の墓石の中に納まるくらいか
悪きゃあ、回向もないような野晒しのシャレコウベか。

覚悟はしているつもりでも、そんな人生だ。

こんな暮らしをしているうちに堀の澱みのように
思い出したくないことだけ何度も思い返す様になり
忘れたくないことは思い出せなくなって行くだろう。

誰かがほんの少しでも自分のことを
覚えててくれたら救いになるだろうか。


いっそ、女に自分の過去でも話してみようか。







グダグダで心細い、でも美しい夢。

狂乱と驚喜と乱痴気騒ぎと賞賛と
一方で怠惰と虚無と孤独との落差。

極彩色と白黒を一緒にしたような夢でした。



  



いいブログです。更新休止は残念。
【古今東西風俗散歩(町並みから風俗まで)】






posted by 08 at 00:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 瞳を閉じて見る夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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