2010年07月18日

瞳を閉じてみる夢 月に成る

飼い猫が神妙な面持ちで部屋に入ってくる。


我が家の猫は襖を開けるも閉めるも自由自在だ。
最期の旅に出る時なので暇乞いに来たのだと言う。

そういえば僕が赤ちゃんの頃からいた。
(我が家にはもっと前からいたという)
思えば随分と長生きな猫だと今更思う。

本来ならば家人には伝えずに去るのが猫の世界の本寸法であるのに
「自分の様な立派な猫がそれを破るのは余程の事と思ってください」

マメ(飼い猫の名)は身体こそ決して大きくはないが
女傑として近所に君臨しボス猫として尊敬されている。

近所の猫も自分と顔をあわせると挨拶がてら
マメの事を「水戸黄門様の様な方ですよ」
とよくわからない褒め方をしてくれる。


「坊ちゃんはとにかく泣き虫で寂しがりでしょんぼり屋、心許ない限り。
 ふいっと、いなくなっただけの別れではいつまでもマメを思い出して
 泣き暮らすのだろうと思うと、心安く旅立つことも叶いません。
 後ろ”毛”引かれることないようにお別れだけ言っておきます」


僕がまだ生まれたばかりの頃
縁側で座布団の上で寝ていたこと。
側で野良犬から守っていたのがマメだったこと。

幼稚園で友達に叩かれて泣いて帰ったこと。
喧嘩のコツを教えてくれたのがマメだったこと。
(そしてそれを一度も活かせなかったこと)

母親が出て行ってしまってからは
親や祖父母を悲しませないようにと
一人押入れの中で泣いてたこと。
そしてマメもお気に入りの縫いぐるみと一緒に
押入の中についてきて慰めてくれたこと。
(おかげで自慢の毛並がべしょべしょになったこと)

そして、今までは内緒だった飼い犬の最期の時のこと。

長生きをした分、最期は足腰が弱くなり
静かに寝ていることが多くなったポチ。

見舞いに顔を出したマメに


「ぼっちゃんとは よくゆうがたや よるに さんぽにいってねぇ
 ゆうがたには ゆうやけが よるには つきが きれえーでねぇ
 あんな ゆきの ゆうべに また ぼっちゃんと さんぽが したいんねぇ」


と言ったものだから
マメは長生きの猫の余技を活かして
夜空の月に化けて、ポチを喜ばせては
その最期の旅路の足元を照らしたのだと言う。


「あののんきモノらしくそれは楽しそうでしたよ。
 あっちの方を眺めたり、こっちの匂いを嗅いだり。
 最期はまた足取り軽く、どこも痛くなく旅立ちました。

 化けるというのは存外に疲れるものなんです。
 このマメが過ぎるほどの餞をしてあげたのですから
 だから坊ちゃんもうメソメソしてはいけませんよ?」


初めて聞かされた話だった。


「 坊ちゃんのやや様を見れないのがマメの心残り。

 きっとかつての坊ちゃんと同じ様に
 ぷくぷく玉のように可愛いくて
 いい匂いがすることでしょう。」


あら、耳が痛い。


「坊ちゃんはマメたちから見ればそれはもう
 ふくふくと丸いお体と、大変お優しいお人柄。

 マメがお慕い申し上げ
 一心にお育てしましたもの

 何処に出しても恥ずかしくない
 自慢の坊ちゃんにお育ちですけれど

 人間の花嫁はまた違った目でご覧になりますし
 人間の中には人柄につけ込む輩も大勢おります。

 ですから坊ちゃん。
 ちょっとは甘いお菓子やお飲み物をお控えになって
 ちょっとは人を疑って掛かる事も覚えて下さいまし」


こちらも耳が痛いお話。
わかりましたと応える。


「長じてからはマメの毛が合わなくなって
 くしゃみが出るようになってしまった坊ちゃん
 それでも変わらず厭わずこのマメを
 抱き上げ撫でてくださったこと、忘れません。

 優しい坊ちゃんがことさらに優しく撫でてくださるその手のひら
 その時の喜びは他の何にも代えがたい時間で御座いました。

 マメはご恩を忘れることは御座いませんからね。
 坊ちゃんもマメのことをお忘れなきよう。

 マメはまた月に化けて夜空におります。
 坊ちゃんを見守っておりますから。

 決して道に外れた事はなさらず
 マメがお慕いする坊ちゃんのまま
 立派に暮らしてくださいましよ?
 マメと約束してくださいましよ?」


僕が泣いてはマメも旅立ちづらいだろうとは思うが
マメの言う通り、めそめそ屋の僕は我慢が出来ない。


「辛くなったら、月になった夜空のマメに
 そっとお話ください。マメは聞いておりますから。
 きっと坊ちゃんを守って差し上げますから」


でも、マメは月になれないのではと思う。

きっとマメはこの秘密を口外してしまったから
猫又になれる資格を失ってしまうのではないか。

『月』の姿にも、『次』の命にもなれず
ただの魂魄に還ってしまうのではないか。

そう思えて仕方がない。

そこまでして、自分を諫めてくれるマメ。


「時は違えど、最後は皆行き着く花咲く浄土。
 ですのでマメは寂しく御座いませんよ坊ちゃん。

 ですが、どうやらお時間が参りました。

 坊ちゃん、ご家族の皆様にも
 どうぞどうぞ宜しくお伝えください。

 この家とこの家の善良な方々に
 お仕い申し上げることが出来て
 マメのご奉公は仕合せで御座いました。
 長々とお世話になりました。

 それでは」


入ってきたときと同じ様に
襖をすると開けては閉める。


元通りの自分の部屋。


こんなにも明るい月夜だったろうか。









目覚めたら泣いていました。
マメは自分が大人になる前に
ふい といなくなったままです。

まだ心のどこかで悲しいままなのかもしれません。

きょうの猫村さんを思い出しました。
月は猫の瞳からの連想でしょうか。



posted by 08 at 11:43| Comment(2) | TrackBack(0) | 瞳を閉じて見る夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
マメさんの優しい心根、
これまでの思い出…
なんともしれない温かい、
けれども切ない気持ちになりました。
「うなぎ先生」とは感じが違うけど、
この夢も大好きな夢に追加です☆
Posted by jun at 2010年08月09日 23:02
追伸:ブログに紹介させてください♪
Posted by jun at 2010年08月09日 23:03
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