2014年06月28日

瞳を閉じてみる夢 よぶこえ

いつの頃からかこの町に住み着いたフォークシンガー。


いつも決まって橋のたもと、夕日の頃の西詰で歌っていた。
よい歌をうたう、穏やかな人なので住民から愛されていた。

納屋を使えと申し出ていた人もいたが、橋の下にテント暮らし。
みんなが差し出すので着るものも食べ物も困る事はなかった。

そのフォークシンガーが亡くなった。
名前も出身も分かるものはなかった。

年を取っているようでも、病気というのでもなくて
ただ眠って、そのまま起きなくなったという感じ。

どうしてこんな小さな何もない町に辿り着いたろう。
肉体労働をしていたのか、フーテンで渡り歩いたか。
どこか知らせる身寄りは、親友は、仲間はいるのか。

当然ながらそんな話がいくつも湧いて出た。

でも皆、表には出さぬまま気持ちのどこかで
詮索は彼の望まぬ事だろうと思っていた。

町で唯一の診療所の先生が
彼の検分を終えた後に、一言

「この町で懇ろに弔ってやれば、それでいい」

と言ってくれてみんなほっとしたのだ。
人が亡くなった後にまでよってたかって
生前の腹を捌くような真似はしたくない。

駐在さんも、先生のその言葉を受けて安心したようだった。

弔いは町の人が総出で執り行われた。

彼のいた橋がいつからともなく日暮橋と呼ばれるようになった。

その日暮らしの男が、日暮れ頃に歌う。
その男も、橋もいいコンビだった。
夕陽の橙色も、暮れかかる夜空の紫色も
なにもかもがぴったりと似合っていた。

橋が彼を呼び寄せたのかもしれない。

しばらく経って、彼が歌っていた辺りに
夕暮れ色の街灯を設ける事が決まった。
ラベル: 蒼氓
posted by 08 at 14:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 瞳を閉じて見る夢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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